概要
研究背景
脱炭素、グリーンイノベーションが叫ばれる中、情報技術にかかる消費電力の削減が喫緊の課題となっています。IoTデバイスや人工知能デバイスが劇的な進歩を遂げている一方で、これらの情報処理技術に必要な消費エネルギーは年々増加の一途を辿っており、2045年には現在生産されている総エネルギーのうち60%が情報技術に必要となることが予想されています。現在の半導体技術に代わる新技術を新しい学術から創製することが必要です。
強磁性体/絶縁体/強磁性体の三層構造で構成される磁気トンネル接合(MTJ)と呼ばれる素子を用いた不揮発性高速メモリ(MRAM)は、そのような新規のデバイスの一つとして注目されています。MRAMは通常の半導体デバイスとは異なり、電源を供給しなくてもデータを維持できるため、既存の半導体メモリやCPUを置き換える新デバイスの候補として期待されています。現在のMRAMの大きな問題点のひとつは、磁化反転に大きな電流密度が必要な点です。電流密度を低減できる手法が開拓できれば、大変魅力的です。
一方、MTJは生体磁気計測用のセンサとしても応用が期待されています。現在、生体磁気センサとしては、4Kまで冷却が必要な超伝導を用いた素子が用いられています。MTJを用いて高感度で小型でかつ室温で使えるデバイスが実現できれば、新たな技術として期待できます。
研究目的
このような背景の中で、近年、本領域研究のメンバーにより、酸化物ヘテロ界面において、理論的には予測されてこなかった電場による種々の巨大な磁化応答が観測されています。これらは、既存の学問では十分には理解されてこなかった界面での特異的な軌道分裂「超軌道分裂」に起因していると考えられます。これらの現象を応用することにより、非常に高効率なデバイスが実現できる可能性があるのと同時に、これらの発見は、様々な物質系のヘテロ界面に、未知の現象が隠されている可能性を示唆しています。本領域研究では、様々な界面を用いて、外場(電場・磁場など)による物性応答(磁化・スピン・構造変化など)を詳細に調べることにより、『高効率デバイス』の実現に結びつく新たな機能性を生み出す『界面学理』の構築を目指します。本現象を原子スケールで観測し、第一原理計算を用いて理論的に理解し、その結果を実験にフィードバックする循環型研究体制により、新たな現象や材料系を開拓していきます。異種材料界面において、超軌道分裂の物理を理解し、高効率に制御することにより、外場による巨大応答を得る上で基礎となる新規の学問分野を創成することを目指します。